Cycとは
人間が持つ常識的な知識を、述語論理の公理として大規模にエンコードすることを目指した記号主義AIの知識ベースプロジェクト
ひとことで言うと
人間の常識をルールとしてコンピュータに大量に教え込もうとした、初期のAIプロジェクト。
概要
Cycとは、人間が当たり前に持っている常識的な知識(「水は下に流れる」「1人の人間は同時に2つの場所にいられない」等)を、述語論理に基づく公理として大規模にエンコードすることを目指した知識ベースプロジェクト。 Douglas Lenatが主導し、数百万にのぼる概念(コンセプト)とアサーション(公理)を人手で構築・蓄積してきた、記号主義AI(Symbolic AI)を代表する取り組みの1つ。 個々の概念はオントロジーとして階層的に整理され、推移律をはじめとする論理的推論規則を用いて、明示的に記述されていない事実を導出できる点が特徴。 統計的な学習によってパターンを獲得するLLMとは対照的に、人手で記述された論理的知識に基づき厳密に推論するアプローチとして、しばしば比較・言及される。
背景
1980年代当時のAIシステムは、専門領域の知識には強い一方、人間なら誰でも知っている当たり前の常識的知識(コモンセンス)を欠いており、些細な状況判断で誤りを犯す課題があった。 Cycは、こうした常識的知識を網羅的かつ形式的にエンコードし、AIシステムに人間並みの常識推論能力を持たせることを目指して立ち上げられた。
歴史
1984年: Douglas Lenatが、MCC(Microelectronics and Computer Technology Corporation)においてCycプロジェクトを開始。 1994年: プロジェクトを事業化するためCycorp社が設立される。 以降現在に至るまで、常識知識ベースの拡充と、それを用いた推論エンジンの開発が続けられている。
利点
- 明示的な論理規則に基づき推論するため、なぜその結論に至ったかを人間が追跡・検証しやすい
- 統計的な学習データに依存しないため、学習データに含まれにくい常識的な暗黙知を扱える
- 一度蓄積した知識はオントロジーとして特定のアプリケーションに依存せず再利用できる
欠点
- 知識の大部分を専門家が人手で記述する必要があり、構築・維持に膨大なコストと時間を要する
- 統計的パターン学習によって非構造データから直接知識を獲得するLLMと比べ、新しい知識の追加・拡張の速度で劣る
- 現実世界の膨大な例外や曖昧さを、有限の公理集合だけで網羅的に捉えるのは原理的に難しい
比較
関連用語
よくある質問
CycはLLMに置き換えられた技術か?
LLMの普及により、Cyc規模の知識ベースを人手で構築する手法は主流でなくなった。 判断根拠を厳密に説明できる推論が必要な分野では、記号主義AIの考え方が今も参照されている。
Cycの知識ベースは公開されているか?
商用版とは別に、知識ベースの一部を公開したOpenCycが過去に提供されていたが、後に提供が終了している。
参考文献
- Official WebsiteCycorp